第49章 私は橘結衣の兄

彼が市川夫人へ向けた視線は、まるで刃だった。

「さっき市川さん、あのブレスレットを売れば橘家の一年分の運営資金になるって言いましたよね。……いつから橘家は、そんな落ちぶれたんですか。俺は知りませんけど」

市川夫人はぎくりとして、顔を上げる。

男の整った顔立ちは陰り、見た目は若いのに、全身にまとわりつく冷たい威圧感は凡人のそれじゃない。

どこかで見た気がする。そう思うのに、記憶の引き出しが噛み合わない。

そのとき、生徒たちの輪の中からひそひそ声が立った。

「……あれ、橘晴美の兄じゃない? なんでここにいるの?」

華南高校で橘晴美を知らない者は、ほとんどいない。

橘晴美は国際クラ...

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